2014年8月19日火曜日

犯罪者プロファイリングのおはなし(大上渉先生)

「教員記事」をお届けします。第九回は心理学の大上 渉 准教授です。




文化学科教員の大上 渉です。

もともとの専門は認知心理学なのですが,最近は犯罪心理学に関する研究が多くなってきました。

例を挙げると

 事件現場の血痕や被害者の流血が目撃者の心理状態に及ぼす影響
 福岡市内で発生した連続放火事件の犯人像分析
 日本国内のテロ組織の犯行パターンの分析

などですね。

今年の夏は卒論生とともに,

 スーパーやコンビニエンスストアにおける異物混入事件
 列車往来危険事件(線路内の置き石など)

などの実態調査や犯人像分析にも取り組んでいます。

 また先日,KBC九州朝日放送「ニュースピア」さんより,犯罪者プロファイリングに関する取材を承りました。8月13日(水)に放送され,ひょっとしたらご覧になられた方もいるかもしれません。

KBCニュースピア取材スタッフの皆様
さて,最近の犯罪心理学研究では,データマイニング的手法を用いた犯人像の推定が流行しています。このデータマイニングとは,そもそもマーケティングやビジネスの分野で用いられているメソッドです。企業は各店舗の売り上げやオンラインショッピングの利用履歴などを大量に集積しています。そのデータを統計的に解析することで,眺めているだけでは知り得ない,隠れた規則性や新たな知識など(例えば,「金曜日の晩にビールを買う男性は一緒に紙オムツも購入する」,「オレンジ色の中古車は故障が少ない」)が得られます。

 従来の犯罪心理学では,解決した事件について,「なぜこのような事件が起きてしまったのだろうか?」,「どうして犯人はこんな残虐なことをしたのか?」と深く考察するアプローチが取られていました。しかしながら,このアプローチで得られた知見を積み上げても,犯罪捜査(事件解決)に役に立つ知見は必ずしも得られませんでした。

 そこで最近では,類似事件のデータをできる限り多く集め(数百件以上),現場の状況や犯人の行動などから,犯人の属性(例えば性別,年齢,職業,婚姻歴,精神疾患の有無など)を統計学的に推測するアプローチ,いわゆる犯罪者プロファインリングが研究・実践されています。

 大量に集められた事件データを解析すると,犯人の行動と属性の規則性が明らかになります。例えば,都市部においてバイク・自動車に放火する犯人は20代以下の男性が多い,またゴミに火をつけ放火する犯人は40代男性が多いといった具合です。こうして得られた知見は,捜査側への容疑者像の呈示,あるいは捜査線上に浮上している複数の容疑者の絞り込みなどに役立ちます。

 このように「犯罪者プロファイリング」はデータマイニングの手法を応用したものなのです。こうしたアプローチにより,捜査の現場では常識と思われていた「定説」が覆されることもあり,正しい実態が認識されるようになってきました(越智,2012)。

 例えば,10年ほど前ではストーカー事件は,見知らぬ人物につきまとわれる犯罪だと思われていました。これは実際にあったセンセーショナルな事例(女優ジョディ・フォスターの熱烈なファンがフォスターにつきまとい,彼女に気に入られようと当時の米国大統領ロナルド・レーガンを銃撃しました。ストーカーが米国の国家中枢まで震撼させた事件でもあります)や映画・ドラマなどの影響があると思われます。しかしながら,ストーカー事件のデータを集めて分析してみると,日本では被害者の元夫や元恋人が復縁や復讐のために行った事件がほとんどでした。

 犯罪者プロファイリングは,データを大量に集めることができれば様々な犯罪に適用可能です。現在は放火や性犯罪など個人的犯罪に対してもっぱら行われています。しかしながら,過激派によるゲリラ事件や暴力団による銃撃事件など組織的犯罪にも有効とみられています。今後しばらくは犯罪者プロファイリング研究のブームが続きそうです。


2014年8月16日土曜日

大学(人文学部)で学ぶということ-役に立つ学問とは何か-(鴨川武文准教授)

「教員記事」をお届けします。第八回は地理学の鴨川武文准教授です。



大学(人文学部)で学ぶということ-役に立つ学問とは何か-


 私の専門領域は地理学の中でも人文地理学と呼ばれる領域です。人文地理学とは、地表の人文現象を研究対象とする、地理学の一分野です。私が地理学に興味を持つに至った背景や大学で学ぶということについて、経験・体験をふまえて述べてみたいと思います。

 私が地理(地理学)に興味を持ったのは中学校時代でした。現在でもそうだと思いますが、地理を本格的に学ぶのは中学校1年生になってからです。私の中学校時代の地理担当の先生は森先生でした。現在とは違ってインターネットのない時代に統計や図表などを駆使して、世界について、日本について、森先生は生徒たちに、地域のさまざまな事象に興味を持たせるような授業をしてくださいました。地理を勉強すると、知らない地域について知ることができる、楽しいことに巡り合うことができるような気がする、このような気持ちに駆り立てられました。要するに地理(地理学)に興味を持ったのです。これは高校時代になっても変わることはなく、大学で地理(地理学)を勉強したいと強く思うようになりました。

 二年の浪人生活を送って地理学の講座がある大学に進学しました。好きな地理学を勉強できると期待に胸が膨らんだのですが、その期待は見事に裏切られることになりました。地理学の科目は2年生の後期からで、それまではいわゆる教養課程で、いろんな科目を履修しなければなりませんでした。「なぜ、地理学以外の科目を履修しなければならないのだろう」「この科目を受講して何の役に立つのだろう」と正直思いました。教養課程の科目を履修し、専門課程になり、学部卒業後大学院に進学し、博士課程在学中に福岡大学に採用していただき、教員として着任することになりました。教えてもらう立場から教える立場に変わったのです。

 大学に長く奉職しているとさまざまな変化を経験することになりました。教える立場からすると、以前にはなかった学生の皆さんによる授業評価はその一例でしょう。学生の皆さんが履修している科目の授業評価アンケートをみると、「役に立つ授業をして欲しい」という意見が多くあります。それでは「役に立つ授業・授業内容」とはどのようなものでしょうか?「役に立つ」というのは、何かの目的にとって有用であるということができると思います。たとえば、「就職に役に立つ」「公務員採用試験や教員採用試験に役に立つ」などがそうでしょう。では、皆さんが登録をした様々な授業科目はどのように役に立つのでしょうか。

 福岡大学人文学部の学習ガイドや学部共通シラバスを参照すると、実に多くの科目が開講されていますし、それぞれの科目はそれぞれの学問の一端を示す内容(講義)になっています。また、これらのガイドを参照すると、人文科学、社会科学、自然科学などの多くの科目があります。個々の科目を人文科学科目群に配置するのか、社会科学科目群に配置するのか、それとも自然科学科目群に配置するのかは、大学によってまちまちですが、ここで学問の分類を簡素にしましょう。人文科学と社会科学をまとめて人文社会科学、それと自然科学です。もっと言えば、文系、理系でもいいでしょう。たしかに、文学や哲学、歴史学、宗教学、芸術、心理学、社会学、文化人類学そして地理学のような人文社会科学は、医学や工学のように、病気を治したり、技術によって豊かな社会を実現したりすることはできません。その点では、人文社会科学は「役に立たない」ものです。しかし、人文社会科学を学ぶということは、複雑な現代社会を生き抜くための思考力や判断力を身に付けることと直結しているのです。さらに、人文社会科学は他の国々や異なる地域の言語、文化、社会との出会いを可能にしてくれることによって、他者の領域を広げてくれます。つまり人文社会科学は、世の中には自分とは違った物の見方や考え方があることを、文学、哲学、歴史学、宗教学、芸術、心理学、社会学、文化人類学、そして地理学、さらには英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ロシア語、中国語、朝鮮語などの言語などさまざまな学問を通じて教えてくれると思います。

 人文社会科学は、一般に「虚学」と呼ばれることがありますが、「虚学」と対になるのが、世の中に直接的に役に立つ医学や工学などの「実学」です。私は両者は対立するものではなく、車の両輪のようなものであると考えています。

 私たちは科学技術によって物質的な豊かさを実現できましたが、一方で、豊かさを求めたあまり、さまざまな環境問題が生じましたし、今日、それらが人間の生存をすら脅かしていることも事実です。一方で、環境問題を解決するために科学技術に依存せざるを得ないこともまた事実です。しかし、環境問題の背後には、人間のあり方や社会の仕組みが複雑に絡み合っており、これを科学技術で解決することは困難です。今日の世界を揺るがしている民族紛争、宗教対立、文化摩擦などの問題となれば、なおさら科学技術で解決することはできないでしょう。だからこそ人間の本性や社会の仕組みを解明する人文社会科学の存在意義があるのです。

 長々と書きましたが、結局、結論はどこにあるのでしょうか。それは明確です。役に立たない学問はないということです。でも、今すぐには役には立たないでしょう。長い時間をかけて学生の皆さんの血となり肉となるのです。

2014年8月6日水曜日

授業紹介:平井ゼミ(LC12 緒方優輝くん)

学生さんによる記事です。平井ゼミの緒方優輝くんによる「共同執筆論文」体験記です。


皆さん初めまして、LC12台の緒方優輝と申します。
今回は縁あって学生ブログの記事を書かせていただきます。


 自分は今年から、文化学演習III(ゼミ形式の講義になります)にて、平井靖史先生の下で哲学について学んでいます。

 皆さんは哲学というと、難しそうで近寄りづらい……と思われている方も多いと思います(正直自分もそうでした)。しかし中身は、自分でテーマについて考えて、自分の答えを出せる、とても自由な学問になっています。これまで敬遠してきた方も、一度哲学に触れてみると、考え方が変わるかもしれません。……いきなりの哲学への勧誘まがいはこのあたりでやめておいて本題に入りたいと思います。


 自分の所属しているゼミでは前期で3人の哲学者、デカルトとスピノザ、ベルクソンについて勉強をしてきたのですが今回の期末課題にて、ゼミを3チームに分けてそれぞれの哲学者についての論文を1本まとめて書くという活動を行いました。

 自分のチームでは、スピノザという哲学者の「永遠」という言葉の考え方についての論文を執筆することになり、スピノザが執筆した本や、スピノザについて書いてある論文を数点読んだりと、準備を進めていきました。

 自分は今まで課題として出されたレポートは個人で執筆するものだったので、もちろん全て1人で調べて書いていました。それがチームとなると、1人で書くのとは違い、自分で考えたことを他人に理解されるように伝えたり、論文の内容も皆で納得した上で書かなければならなかったりと、協力して何かを作り上げることの難しさを感じました。

 しかしそれと同時に、自分では気がつかなかった部分を他の人が発言することで気づくことができ、それを元にもう一度考えると前よりもいい意見になったりということもあり、うまく連携がとれると1人で書くよりもより良いものが書けることを学びました。

 全員の意見を取り入れつつ論文を書き上げるのは苦労しましたが、なんとか論文は完成し、提出日に間に合わせることができました。先生にレポートを提出するのは自分の担当だったのですが、レポート投函口にレポートを入れる瞬間、1人で作り上げた時の達成感とは比べ物にならない達成感を味わうことができ、これまでしたことがなかったけれど、やれば出来るんだなと感じました。こういう体験は、大学ならではの活動でしか味わうことの出来ないものなのだろうなと思います。


 大学生活でしかできない経験は社会人になってからも活きてくるものだと思うので、是非皆さんも自分の興味のあることを見つけて、それにたくさん触れてみてください。自分の知らなかったことをたくさん学べて、これからの生活が良いものになっていくと思います。


LC12台 緒方優輝

2014年8月4日月曜日

福岡大学オープンキャンパス2014について

平成26年8月9日(土)に福岡大学ではオープンキャンパスが行われます。
人文学部文化学科でも「模擬講義」や「個別相談」などを行いますので,ぜひお越し下さい!!

文化学科で行う催し物については以下の通りです。


文化学科オープンキャンパス2014ポスター



模擬講義 1)  「アートの楽しみ」
   講 師  浦上雅司 教授
   時 間  11:30~12:10
   場 所  8号館 826教室

模擬講義 2)  「災害の社会学」
   講 師  本多康生 講師
   時 間  14:00~14:40
   場 所  8号館 826教室

教員・在学生による個別相談
   時 間  10:00~16:00
   場 所  A棟 A603教室







またご来場頂いた方には各界で活躍する文化学科卒業生や在学生を紹介した
『文化学科卒業生・在学生名鑑』をプレゼントします。
(品切れの際はご容赦下さい)

『文化学科卒業生・在学生名鑑』の表紙

ちなみに,以下の画像が昨年度の文化学科オープンキャンパスの状況です。在学生のお姉さん・お兄さんや教員が皆さんのご来場をお待ちしています!!


昨年度のオープンキャンパスの様子